2011年10月27日

お歯黒の染料「五倍子」で紫が染まった

五倍子の染色
お歯黒の染料「五倍子」で紫が染まった
半世紀ほど前まで、九州の田舎町には、歯を黒く染めた婦人がいた。「お歯黒」である。既婚者であることを示すその風習はすでに途絶えたが、古い町屋の奥から出てきたその女性は、その歯の色によって一層、艶めかしく、美しさを増すように感じられたものであった。
当時、山の女性は、山道でヌルデの葉に付いた瘤のようなものを見つけると、大切に採集し、保存した。それが、歯を黒く染める染料「附子鉄漿(フシカネ)」=「五倍子(ゴバイシ)」であった。乾燥したその固形物を町の薬屋が定期的に買いに来ていた。
五倍子はヌルデの若葉に寄生するヌルデアブラムシの刺激により、植物体の保護成分であるタンニン酸が集中して膨らんだ「虫瘤」である。最初、小さな膨らみだった瘤=附子が徐々に膨張して五倍ほどにもなることから五倍子と呼ばれるのである。とは言っても、その大きさは最大10センチ程度であり、要するに虫の巣であって、見栄えも決していいとはいえない。しかも、ヌルデはウルシやハゼの仲間であるから、素手で触ったりすると激しくかぶれる場合がある。現代生活からは敬遠される植物のひとついえるだろう。
この五倍子が、染料としては一級品である。鉄媒染で紫がかった黒が染まり、塩化クロム媒染で薄茶色、藍で下染めして塩化クロムで発色すると錆鼠(さびねず=グレイがかった青)が得られる。
ヌルデアブラムシの幼虫は苔類を食草とすることから、環境汚染の少ない渓流沿いの山道などが採集地となる。通常、蒸して乾燥したもの(中国産が多い)が用いられるが、採集してすぐに処理すれば、咲き始めたばかりの山藤の花のような紫が染まる。

お歯黒の染料「五倍子」で紫が染まったお歯黒の染料「五倍子」で紫が染まった
尾鈴山麓の山道で、五倍子を見つけた。すでに紅葉が始まっていた。
早速採集し、翌日には処理した。まず、虫こぶを袋に入れ、15-15分間煮沸。

お歯黒の染料「五倍子」で紫が染まったお歯黒の染料「五倍子」で紫が染まった
透明な煎液が得られた。この作業を繰り返す。7回ぐらい抽出できる。
絹の紬糸を準備。

お歯黒の染料「五倍子」で紫が染まったお歯黒の染料「五倍子」で紫が染まった
媒染剤(木酢酸鉄)を入れた染液に糸を入れ、染める。
光沢を持った紫が染まった。裂き始めた山藤の花の色を連想した。

お歯黒の染料「五倍子」で紫が染まったお歯黒の染料「五倍子」で紫が染まった
織機に糸が掛った織り上がりが楽しみ。

        


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Posted by 友愛社 at 11:17│Comments(0)自然芸術館
 
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