2009年12月11日

ちょっと時期遅れのソバ刈り

[がんじいの料理帖7 ソバ掻きを食べたい]
 ひょっとしたら、誰からも忘れられていたのかもしれぬ。茶臼原台地の片隅の休耕田で、野の草に混じって可憐な白い花を咲かせていたソバは、いつの間にか黒い実を稔らせて、収穫の手が入るのを待っていたのである。
 12月初旬の茶臼原台地に霜が降り、時雨が米良の山脈を白く霞ませている。霜に焼かれて茎が萎れ、雨に打たれて実が地面に落ちたら、収穫の機会を逸してしまうのだ。冷たい雨がソバ畑をぬらす日、ようやく人出が揃って、時期遅れのソバ刈りが始まったのだった。

ちょっと時期遅れのソバ刈り 

 ソバ刈りといえば、通常は鎌で茎の根元から刈り取り、持ち帰って10日間ほど乾燥させ、木の槌などで叩いて実を落とし、「箕」でゴミや枝葉などをふるい落として黒い実だけを貯蔵するのだが、今回は、刈り取る時に実が落ちてしまうおそれがあるほど刈り取り時期が遅れたので、手でしごいて収穫する方法をとることとした。手のひらで茎の下部を包みこみ、上方に向かってしごくと、手の中に実が残る。それをもう一方の手に持った籠や箱やビニールの袋などに入れて収穫するのだ。
 一本一本、手に茎を持ち、梳き取るように実を取り込んでゆく。雨が手や顔やソバの茎を濡らす。まるで縄文時代そのままの収穫風景ではないか。あるいは焼畑伝承にちなむ山姥そのものといえる姿ではないか。ソバの栽培にちなむ伝承は全国に分布していて、お産に立ち会った山姥から狩りの豊猟を約束された猟師の話や、子どもを食いに出てきた山姥を退治したら、その赤い血でソバの茎が染まったという話などがある。山の神信仰とソバの栽培、狩猟・焼畑耕作とは不可分の関係をもちながら、現代に至るまで伝承されてきたのである。

ちょっと時期遅れのソバ刈り

 ちなみに椎葉地方には今も焼畑を行う耕作者がおり、高千穂神楽には「五穀」という演目があって、五穀の神が米・粟・稗・豆・蕎麦(麦または玉蜀黍の場合もある)の五穀を持って荘厳な舞を舞う。
 今年収穫されたソバの実はわずかなものだったが、来年の種としては十分な分量であった。茶臼原自然芸術館建設資材として杉の木を切り出された森を焼き、育て、野草に混じって生育し、さらに雨や台風の襲来などによって蒔く時期も取り入れも遅れるという過酷な条件の中を生き抜いた、したたかなソバたちを来年こそは良い条件のもとで育ててあげたい。そして、挽きたての、あの香り高いソバガキなどを食べたいものだ、と思ったものである。
 すでに、粉ひき用の石臼は用意されており、準備は万端なのじゃ。
 


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Posted by 友愛社 at 11:50│Comments(1)がんじい
この記事へのコメント
こうして美味しいそばができるわけですね♪
Posted by 自動リンク集小悪魔リンク at 2009年12月11日 13:43
 
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    コメント(1)